2月10日(土)オレマガッタ直線@月見ル君想フ ライブレポ 澤山一恵
月見ル君想フにはいつでもふくよかな満月が懸かっている。
18:30から始まったライブはすでに3組がアクトを終え、場内はほどよく温まっている。ロボピッチャーは副将としての登場だ。ロボピッチャーを待つ会場はそわそわしている感じがしないでもない。浮き足立っているようなそわそわした時間。それは待ち合わせ場所で好きな人を待つ時間に似ている。そしてそんな時間はきっと誰しもが好きだろう。私の目にするところ、誰もが笑顔だった。森さんの準備するスネアがしゃらんしゃらんと音を立てる度にふくらむ期待を私はそのままにしておく。
場内の照明が落ち、満月が青く妖しく光る。森さん以外の3人が現れる。短い挨拶。「ロボピッチャーです。京都から来ました」もちっとしながらも、小気味よく拍の頭を叩くリズムで今夜の幕が開く。「ループ」。加藤さんは身をよじらせて歌う。心なしか切なそう。そして時々短く叫ぶ、跳ねる。それを見て私は「今夜もロボピッチャーにありがとうを言えそうだ」と鷹揚にグラスを持ち直す。時折ロボピッチャーが作り出す静寂(「しじま」と読んでいただきたい)に場内の空気は収斂し、音の放たれる次の瞬間私たちはより心地よい空間へと解放される。小刻みな3拍子へと軽やかに移って「ロボピッチャー」。場末の楽団が奏でるような少しくあてどなく、もの哀しい調べ。いまでも黄金町あたりではこのような音楽が響いているのだろうか。「ロボピッチャー」という曲は前時代がかっていて、私はその時代に生まれてもいないのに懐かしいとさえ感じてしまう。ロボピッチャーはレトロフューチャーだ。伊藤さんは太陽系の外と交信していそうな音を出している。
銭湯をネタにした加藤伊藤漫談はこの日も好調で、笑って笑って、私の目元は少しほとびる。加藤さんは俯きがちに「今日のお客さんはあったかいなぁ」と呟く。ふふ。奇遇だね。私も同じことを思っていたよ。
ふうわりとした余韻そのままに「だいじょうぶ、たぶん」が始まった。素朴なギターのリフは生で聴くともっとほっこりする。シンバルのトレモロは清冽に場内の空気に浸透していく。この曲は聴くトマトジュースだ。トマトジュースが飲めない私は代わりにこの歌を聴こう。何て、有機的な曲!きっと私を清らかにしてくれる。「あなたはあなたのままでいていいんだよ」と肯定してくれているような気がする。有田さんのコーラスはとろんとしていて幸せになる魔法だ。徐々に重なっていくコーラスは安心感を強めてくれる。欲を言えば、もっとコーラスの音量が上がるといい。せっかくのコーラスワークなんだから。それでもいつまでも感傷に浸ったままにしてくれないのがロボピッチャーの心憎いところ。中華なイントロに歓声が上がる。「♪たっきゅうーたっきゅうー」と伊藤さんが裏声で歌い出した頃には、それはもう、波みたいに歓声が起こってはじけるほどに。階上で見ていた私にはそれがよく分かった。CDで聴くよりずっとギターの響きを意識できて新鮮だった。観客とメンバーの間に横たわる何かを埋めるためにライブはあると私は思う。それは認識の差であったりす るかもしれない。残念なことにその差が広がっていくようなライブもある。けれどロボピッチャーのライブでは、観客とロボピッチャーがそろそろと歩み寄って一緒に曲を作っていく感じがする。おかしいな、曲は加藤さんが書いて、それはロボピッチャーという楽団の演奏で完成するのに。私たちにも曲を共有させてくれる懐の深さだったり、親しみやすさがロボピッチャーにはある。今日一番の盛り上がりを見せる「卓球makes me high!」の流れる中、私の頭の中はぼんやりとしてまとまらないけれど。間奏では伊藤さんがもそもそ前に出てきてサックスを奏でる。即興のようなその演奏に、ロボピッチャーにはいろんな変化球があるんだなぁとあらためて感心する。加藤さんは「いまだにこの曲をやるときはメンバーみんな苦笑いです」と言うけれど場内は「なぁにやってんだか」といういたずらっ子を見るようなほわほわした眼差しに満ちていたように思う。
改まった調子でMCは続く。「『いい音楽』を届けたいと思います。そして『いい音楽』はぼくらで決めていきます」鼓動がとくとくいう。私の心音かと錯覚してしまう。「ミクロ」だ。これは『いい音楽』。今、私が決めた。「簡単な歌を歌いたいと思う 君がどこにいても取り出せるように」−この歌に限らないけれど、ロボピッチャーの歌のいくつかは一部を聴くだけで全ての小節が響き出すほどに、一つの歌の中で世界観が貫かれているなと思う。じわぁっとしているうちに「サイケデリック・ハロー」。ライブで聴くと加藤さんのギターが耳に残って、CDとは違った印象を残す曲だ。思っていたより重厚感があった。
宴の後。アンコールがあるといい。メンバーが退場してもなお拍手が続く。手のひらだけでなく私の体もじんわりと温まっている。それは私が口にした2杯の泡盛のせいではなく、ロボピッチャーが発生させた熱量のせいだ。何ジュールくらいあるだろう?聴神経から脳幹を経て大脳皮質に届くのとは別に、私たちを構成する数多の細胞一つ一つに働きかけてそれを揺さぶるような音を彼らは奏でた。そしてこの日一番、観客の細胞を揺らしたのは間違いなくロボピッチャーだった!熱気のこもった場内が何よりの証拠。少なくとも私はそう信じている。
2007年2月10日@青山月見ル君想フ
with PLEGLICO/Megane Wrench/ドブロク
opening act : Seagull meets the sun
セットリスト
1.ループ
2.ロボピッチャー
3.だいじょうぶ、たぶん
4.卓球makes me high!
5.ミクロ
6.サイケデリック・ハロー |