消えたレトロゲームテープを探せ!特別企画。
 

「林君と僕と伊藤君」

 

 ロボピッチャーコラムを毎週楽しみにしておられる皆様こんにちは。ロボピッチャーのギターボーカル加藤です。
 今日も一日更新が遅れてしまいました。
 忙しかったからです。
 ええ、もうそりゃ忙しいんですよ。逆転裁判4のせいです。
 普段だっていっぱいいっぱいで生きてるのに、なにが逆転裁判4だよ!最高だよ逆転裁判4!いや、もう前作と比べてどうこうとかじゃなくて、「異議あり!」っていえるだけで生まれてきて良かったって思うよ。

 ところで、本日は、とある有名映像作家さんと伊藤君と僕の三人で先日行ったある対談をアップする予定だったのです。だったのですが、テープが行方不明になりました。








あ、

あの、

ごご・

ごめんなさい!!!!!!!!!!!!1!!!!

 

 現在2007年4月22日午前4時なのですが、もう4時間以上テープを探しているのです。っつうか、なくなるはずないんです。このパソコンの横の棚に置いたもん。いや、ほんとです。ほんとに置いたんです。もう棚の中のものを全部引っ張り出して、整理整頓してもう一回入れなおしたし、あらゆるカバンなどの入れ物を見直したし、ゴミ箱も全部開けて見たけど、ねえ!わからん!もうわからん!
だって、なくなるはずないもん!この部屋の外でテープを聴くことなんてないし、この場所でしかテープ起こししないのにないの。ないんだよー!くそ。念のため棚の中のテープも全部聞き返したけどない。おかげで、3年以上前に作った曲とか発見しちゃったよ!これがまた良い曲なんですよ!むう。侮りがたし3年前の俺。
というわけで、今週はもう本当に申し訳ありません。対談に参加していただいた映像作家の林さんに悪すぎるので、僕と林さんがどうやって知り合ったのか、そしてなんでこんな対談をすることになったのかを書きます。で、もしテープが見つかったら来週以降にアップで。あーもう頭がくらくらする。物探すのってすげえ体力いるよねー。あとなんか頭も使うよねー。推理力っていうか。ほんとにめちゃくちゃいろいろ推理したけどなかったわ。もうわからん。一時的に気が狂ってゴミ箱に捨てたとしか考えられん。だって、一週間前まではあったんだもん。あったんだもーーーーーん。おろろーーーん。
 というわけで、以下またもや緊急コラムです。



林君と僕と伊藤君。

加藤隆生

林君と出会ったのはなんと20年くらい前だ。
僕は小学6年生だった。
当時の僕の興味はゲーム。もしくはゲーム雑誌。女子とか全然目に入らなかった。いや、まあ、そりゃあちやほやされたら嬉しいとかあったけど、「クラスの女子にもてる」よりも「ドラクエを発売日に買う」のほうがプライオリティーが高かった。
「なんか最近佐藤の胸がでかくなったと思わない?」といってる小学生より
「お、俺!昨日メタルスライム倒したぞ!」といって狂喜している小学生の方がなんかかっこよかったんである。
「マジかよ経験値どんくらいはいったの?」
「わからん。100は越えてた」
「ひゃひゃひゃく!!!」
 メタルスライムを倒した時に手に入る経験値が100を超えるというその衝撃的なニュースを聞いたときのことはまだ覚えてる。
「おれ、昨日トヘロス覚えたから、もう敵に会わなくていいねん」とクラスのみんなに嬉しそうに語ったときのことを覚えている。しかしそれは嘘だった。僕は覚えたばかりのトヘロスを唱えてついつい遠出をしてしまい、メイジキメラに殺された。
 いや、そんなドラクエの思い出を語っている場合ではない。林君の話である。いまや高名な映像作家の林君である。先日の対談テープをなくされてしまった悲劇の映像作家林君である。

  実は林君と僕は小学校が一緒だったわけではなく、母親同士が幼馴染という関係だった。
 なんとなく彼のお母さんはよく家に遊びに来ていたので、顔は知っていたけど、その息子はぜんぜん知らなかった。
 しかし、ある一言が彼と僕を強力に結びつけたのである!
 彼の母親はあるとき言ったのだ。
「ねえたか君。家にはディスクシステムがあるよ」
「っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 僕は声にならない声を上げた。犬にしか聴こえない周波数の音だった。
 当時ディスクシステムと言えば、小学生の憧れ中の憧れアイテムだった。正直親を質に入れてでも欲しかった。いや、親はいなくなると困る。今度結婚することになった妹くらいならいなくなっても良いからディスクシステムが欲しかったことは間違いない。つうか、もうディスクシステムがもらえるなら、一週間くらい断食したと思うね。うん。した。
 で。林君の家にはディスクシステムがある、と。
 その情報だけでもう充分だった。僕と林君は仲良くなれる気がした。なんつうか、運命感じちゃったっていうか、いま世界で会いたい奴ナンバー1にまだ見ぬ林君が躍り出た。
「明日にでも遊びに行くよ」
 なーんて言ったのかどうかもうさっぱり覚えてねえけど、とにかく僕はある雨の日に傘を差して、とぼとぼと30分くらい歩いて林君の家に遊びに行った。がらりとドアを開けて「こんちわー」というと中から林君と林君のお兄さんと林君のお母さんが出て来た。まあ、この人たちはみんな「はやし」なのだけど、ここではこう呼ぶ。で、まあ林君たちと楽しくディスクシステムで遊んだわけです。憶えているのは「謎の村雨城」と「ゼルダの伝説」。なんせディスクシステムが出てすぐのころだったので、そんなにソフトがなかったのです。僕は林兄弟がゼルダの伝説をやるのを興味津々で眺め続け、「うわー」とか「しぬー」とか魂のリアクションをとり続けた。ゼルダの伝説で出てくる耳の大きなモンスターがツーコンのマイクに向かって叫ぶと死ぬところもこのとき初めて見た。噂には聞いていたが、ツーコンで死ぬモンスターがいるのは本当だったのだ!!あの時の衝撃は忘れまい。

 ま、以上が僕の林君のほぼ全記憶であった。
 というか、それから20年後、2006年12月までそんなことがあったことなんかすっかり忘れていた。
 2006年末のある忘年会で僕はフリーペーパーSCRAPの編集長としてマイクを握り、挨拶をした。
その数分後、林君に話しかけられた。「ロボピッチャーの加藤さんですよね」
「え?あ、はい」
「ぼく、林です。あの昔遊んだ。母がお友達で」
 なんかしばらくぜんぜんわからなかったが、ある時点で「あー」ってわかった。その時はばたばたした会場だったので連絡先だけ交換して別れた。林君はちゃんと僕はSCRAPという雑誌を作っていることも知っていたし、ロボピッチャーというバンドをしていることも知っていたのだ。ちなみに林君はアートジャムというでかいアートのイベントで2番目にすごい賞をとっていて、SCRAPにはそのイベントの広告とかも載っていたのだが、僕はぜんぜん林君のことを知らなかった。しかも今から思えば数年前母親から連絡があり「前に遊んでた林君が映像作家になって展覧会やるから見てきたら」とか言われてたのにまったく無視してた。ごめん。林君。あと、テープもなくしちゃってごめんね。

 で、まあ、やはり20年前に感じた絆は運命だったのでしょうか。僕らは2007年早々に飲みに行き意気投合。しかもその時延々とレトロゲームの話を続け、20年経っても男子たるものは初志貫徹であるとばかりに「ファミ通のガバスで水野てんちょの色紙もらったことある?」とか「ログインの最後の"インサイダーケン"は最高だったよね」とかそんな話ばっかりしてた。ちなみに、20年前にあったのは一度だけではなかったらしく、林君は家にも来た事があるそうで、その時は僕はドラクエ1のエンディングを見せてあげたそうだ。彼いわく「ドラクエを初めてそのときに観たのだけど、初めてでいきなりエンディングを見せられた」といっていた。やはり俺はその時から親切だったのだなあと、胸がきゅんと温かくなった。

 ここで、このコラムの熱心な読者であるみなさまはぴんっときたかたもおられるのではないでしょうか。そう、あの僕が知る限りもっともレトロゲームの沼にはまった男、伊藤忠之です。僕は彼ほどディープなゲーム好きをしりません。しかも彼はなぜかここ10年のゲーム事情はしらないのです。「レトロゲーム」にのみ精通した男。愛に生き、そして愛に殉じた男・・・、いや、別に愛は関係ねえ。とにかくレトロゲームといえば伊藤君なのです。
 僕はどうしても伊藤君と林君を会わせたくって、かなり無理やりスケジュールを調整して林君の家で三人で会いました。
 そして、その時僕は見たのです。あんなにあっという間に打ち解けあう大人たちを見たのは初めてでした。電流が走ったのが見えました。伊藤君は林君の映像作品を見るなり「むほおっ!」と不可解な音を出し、「ああ!これはいい!」と声高に叫びました。比較的低音域が響く伊藤君にしてはやけに高い声でした。
 そして、その時に僕らは肩をたたきあい、この三人で今度対談をしよう。そうだ!レトロゲームについて三人で話したら楽しいんじゃないか?読者なんておいていこうよ。ロマンシアがいかにひどいゲームだったかを知らない奴らが今のゲームを語れるわけねえよ、なんていったりしてね。なんかよくわからんけど、「日本で最初のゲーム内広告は永谷園だ!」「あ!僕それ持ってるよ!ほらほらみて!」とか言って、なんだよお前ら。俺を置いて仲良くなるなよ!
 てな具合でした。
 その数週間後僕らはまた会い、そして語り合い、テープに録音し、その後三人で飲みに行き、こころゆくまで話したのです。その時はもうゲームについてだけの話ではありませんでした。恋について、将来について、音楽について、映像について。いやあ、本当に有意義な時間でした。たとえその前に録音したテープがなくなったとしても、あの有意義な飲み会があったことを思えば全然へっちゃらです。へっちゃらですよね?林君これ読んで怒るかなあ。怒るだろうなあ。あ、そういえば忘れてたけど、伊藤君だって怒るよね。どうしよう。俺、何年もライターの仕事やってて、既に何百本とテープ使ってるけど、なくしたの初めてだよ。なんでよりによってこんな大切なテープがなくなっちゃうんだろう。くうう。ともあれ、見つかったら掲載いたします。
 で、林君の映像は本当にすばらしく、ファミコン世代の心を激しく撃ちます。そしてファミコン世代じゃない人たちにも何か訴えかけるものがあるんじゃないかと思います。まだ「ヴァーチャル」なんて言葉がなかった時代。大まかなドットの中で、少ない情報処理の中でなんとかエンターテイメントを成立させようとしたファミコン時代の、わくわく感と、その中に確かにあったかすかな哀しさも感じさせる映像作品です。デジタルの中に潜む抑えた感情の発露です。そして、どれだけ観ていても飽きない、心地よい空間も現出させます。癒しとはまた違う、心地よさ。やさしいだけではなく、癒されるだけではなく、もっと心の奥の方がほんのりと熱くなる様な、しばらく時間を置いてからでもまだその映像が網膜に映っているような気がするような、そんな映像作品です。
  5月に個展を開かれるそうなので、ぜひぜひ皆様お足を運んでみてください。

 ちなみに、現在林君と僕と伊藤君でグッズを作ろうという話になっております。
 でも、5/5のライブには絶対に間に合いそうもありません。いろんな意味ですいません。

 今心配なのは、この運命の出逢いが、テープ喪失という不幸な事件のせいで不毛なものにならないかということです。いや、これは多分僕と林君と伊藤君の仲良しさを妬んだ誰かの策略かもしれません。逆転裁判4をやりすぎたのかもしれません。

 あ。そのうち、レトロゲームのイベントをやりたいなあと思っております。
 なんかやりましょう。伊藤君が「忍者じゃじゃ丸くん」の神業を披露してくれたりすると思います。みんなで古いゲームを持ち寄って、大画面で、ビールを飲みながらだらだら遊ぶ感じで。

 じゃ、また来週。
 今週はこんなのでごめんね。

  ロボピッチャー
  加藤隆生

林勇気 展 やすみのひのしずかなじかん

場所:gallery neutron
会期:5月15日(火)〜27日(日) ※24日(木)は休廊
時間:午前11時〜午後11時(最終日は午後9時まで)
http://www.neutron-kyoto.com/

林勇気プロフィール

林勇気  映像作家・美術家
1976年京都生まれ
1997年より映像の制作をはじめる
1999年・2002年 映像作家 大木裕之の作品に撮影と編集で参加
現在宝塚造形芸術大学の講師

個展
まわるとするなら (京都 ギャラリー三条)
とどくとおもった、そら (京都 ギャラリー三条)
LAST BOY LAST GIRL (KYOTO ART MAP 2006 ギャラリー三条)

主なグループ展
STARTART001 (細見美術館)
美術誕生 (八王子市夢美術館)
アウト ザ ウインドウ (東京 国際交流基金フォーラム)
アウト ザ ウインドウ (韓国 Project Space ZIP)  
旋律の映像 (京都 gallery neutron)
透過する音楽 (京都芸術センター)
裏・アートマップ (京都芸術センター)
AMUSE ART JAM (京都文化博物館)
トランスメディアーレ (ドイツ)
新進アーティストの発見 (愛知芸術文化センター)

主な映画祭
バンクーバー国際映画祭 (カナダ)
高尾国際映画祭 (台湾)  
香港国際映画祭 (香港)
ナッシュビル国際映画祭 (アメリカ)
アジアン・アメリカ国際映画祭 (アメリカ主要都市を巡回)
ソウルフリンジフェスティバル (韓国)
ソウルビデオフェスティバル 特集上映 (韓国)
バルセロナアジア映画祭(スペイン)
plop asia tour (香港 Agnes b CINEMA)
トロント・リール・アジアン国際映画祭 (カナダ)

主な受賞
香川芸術祭・せとうち映像祭 / 優秀作品賞 受賞
動楽映楽・アニメーション実験映像劇場 / 香山リカ賞 受賞 
イメージフォーラムフェスティバル / 審査員特別賞 受賞
AMUSE ART JAM / 準グランプリ 受賞
トロント・リール・アジアン国際映画祭 /
Wallace Most Innovative Film or Video Production Award 受賞

http://www1.odn.ne.jp/tropfen/kanyukuyuki/



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