そんなわけで、前回の伊藤加藤両氏からの指令どおり、2月某日、ロボピッチャーのみなさまが鋭意レコーディングに励んでいらっしゃるという湖国のスタジオをおそるおそる訪れました。ちなみに天気予報は曇のち雪。まさに冬のただ中です。
|
ドラムス森さんが経営されている、小高い丘の上のstudio BOSCO。
ご存じないかたはぜともサイトに見に行ってみてください。こんなきわめつけにロマンチックな場所でロボピッチャーの楽曲が録音されているなんて、ちょっと信じられない気すらしますから。
この日はレコーディング初日。ドラムとベースの収録が行われています。そして既に2曲が順調に録音されている!けっこう調子いいんじゃない?
…の、はずでした。 |
しかし最高にドキドキしたわたしがスタジオの中へと足を踏み入れたまさにその時、有田さんが
「ベースが壊れたの…」
と音の鳴らなくなったベースを手に現れる、という最高にションボリな展開が……
あ、あれ?
もしかして今回の潜入取材、これにて終了?
なんて一瞬戸外の空気のようなひんやりした気分に見舞われたのですがもちろんこれで終わるわけはありません。
スタジオの主にしてドラム森崇さんがハンダゴテでベースに応急処置。見事にベースは復帰し、無事にレコーディングは再開されたのです。森さんってなんでもできはるんですね! |
|
スタジオはとても明るくきれいで、モニターや機器の並ぶコントロールルームには、何で音楽を作る場所にあんなくつろぎソファがあるのかわからないほどくつろげそうなくつろぎのソファーがありました。
いや、必要なんだ、きっと。だってここであの名曲たちが作られてきたのだから。
|
この日の収録は有田さんのベースと森さんのドラムということで、録音ブースで楽器を演奏するのはこのおふたり。残りのおふたりはもっぱらくつろぎソファーが定位置でしたが、これは決しておふたりがただひたすらにくつろいでいらっしゃったことを意味するわけではありません。
意味するわけではありませんが、加藤さんはずーっとニンテンドーDSで冒険されてたし伊藤さんのパソコンからもときおりゆかいな電子音が聞こえてきていましたよ。とてもたのしそうです。 |
レコーディングは、あらかじめ用意されている仮歌(とはいえきちんと加藤さんが歌い、ギターやキーボードの伴奏が付けられています)の音源に合わせてベースとドラムが同時に演奏、その音を収録していく、という形で進められていきます。
後日あらためて、ギターやヴォーカルやキーボードがその音にかさねられていく、というわけですね。(仮なので歌詞は差し替えられる場合もあり、そのまま通る場合もあるようです。)
有田さん、森さんが録音ブースへ入り、少しの沈黙。そして仮歌が流れ始める。その瞬間、ゆるやかだった空気がすうっ、と緊張をはらみます。
コントロールルームの音は拾われることはないのだとわかっていても、身動きさえはばかられるような。視線を動かして様子をうかがうのももったいなくなるような。だからこのときの伊藤さんや加藤さんの様子をあまりよく観察することができませんでした。それもどうだろう。
モニターの中と、流れる仮歌と、今そこで刻まれているリズムとビートに釘付けでした。 |
|
1曲目は、加藤さんのソロライブではお馴染みの曲。ロボピッチャーバージョンになるというのは嬉しい驚きです。
わたしの中ではアメリカンコミック・ムービー(そういう映画は観たことないけど。)のオープニングテーマ。なぞめいたストーリーと疾走感のあるナンバーです。仮歌を聴くだけで既にワクワクするんだもの。
そこへベースとドラムが重ねられると、俄然勢いが増します。完成度が高まるごとに、この曲はきっともっと楽しくなるに違いありません。
1テイクが終わるごとに、ブースとコントロールルームの間で演奏に関する指示やアドバイスがやり取りされます。
|
「2番に入る前にダン!と鳴らしてみたらどうなりますかね」
「ベースもうちょっと冒険してみたらおもしろいと思うな」
意外なことにこのときギターボーカル加藤さんからの指示はほとんどなく、細かく要望を入れていくのはキーボード伊藤さんの役目のようです。自称アドバイス担当大臣です。
ちなみにその間も加藤氏は熱心に冒険中。世界の地図は見つかりましたか? |
3つほどのテイクが録音されたところで、コントロールルームに全員集合。録ったばかりのテイクを聴き返しながら、さらに全体的な検討が重ねられていきます。
さっきまでソファーに伸びていた(ような気がする)加藤さんの目つきが鋭く変わり、床に足をのばした森さんも、ひと休みしている有田さんも、伊藤さんも、一見ゆったりと話しているようでどこかピリッと張りつめた顔。そうして話し合うことでお互いに曲のイメージを理解し、重ね合わせていく、そんな過程のようでした。
「サビの部分のベースがポップすぎると思うねん。もうちょっとスタスタ進んでいってほしい」
「ドラムは自分勝手に暴れてる、みたいな感じで」
全体的な曲のイメージ、どんな音で彩っていくか、その舵取りをするのが加藤さん。そして具体的にどこをどう変えれば良さそうか、こうしてみたらどうか、と指示していくのが伊藤さん。みていると、どうやらそんな役割分担のように感じられました。
「じゃ、もう1回行ってくるわ」
そうして部屋を出ていく森さんと有田さんの背中が、ひどくカッコいいのでした。
外は雪。窓から見える景色がどんどん白くなっていく中、スタジオの中はおだやかにですが熱い気配が濃くなっていくのです。
繰り返される演奏。ときには曲の途中で止まってしまうこともあり、やり直しが続くことも。
「ハマってくるかな、ここから」
「きな臭い曲ではあるな」
ふと聞こえた静かな会話に、きっと、過去何度も何度も苦しい収録があったんだろうなと感じました。
しかし弛むことなくレコーディングは続いていきます。ひどくつまづくこともなく、おそらくは順調に。
いちど全体的な録音が終わると次はサビの部分のみ、また何度も収録が重ねられます。その度に細かく修正しては、前のテイクとつないで確認していくようです。納得がいくまで繰り返される作業。…作業、なんて言葉はきっとふさわしくない。厳しいけれどとても楽しい、きっと工作の時間。
そうして組み立てられたひとつの曲が、コントロールルームに集まった皆さんの前で流れて。
「いい感じ。基本これでOKですー」
「うーん。もう1回やっていいですか?」
そういって有田さんがひとりブースへ戻っていきました。
ああ、けなげ……健気ですよ!
そうして、約1時間と10分、1曲収録が完了しました。ほっとした空気が満ちて、ブースから戻ってこられた有田さんと森さんを迎えるのがとても幸せに感じられる瞬間でした。
でも、すぐ次の曲の収録がはじまるのです。
次の曲は、凝った感のある1曲目とは対照的にとてもシンプルな(でも奥の深い!)歌でした。なので収録中話し合われるのも、おもに「シンプルさ加減」をどのくらいにするか、ということ。シンプルな曲ほど難しい、というのはほんとうのことみたいです。じっくりと悩みながらの収録でした。
加藤さんがこのレコーディングの3日前に作ったという、本当にまっさらの新曲です。なのにいつかどこかで聴いた気がして、聴き入っているうちに心に染み入ってくるようで。わたし、潜入していることも忘れてふつうに感動してました。
TAKE1:
「間奏とかもっと淡々といったらいいかなぁ。ベースももっと数を減らして弾いてみてください」
TAKE2:
「うーん、なんかゆったり感がなくなったというか…加藤君なにかある?」
「いや俺はもうこの曲は。君にまかすわ」
どうやらこのおふたりの間には微妙な任せ加減というものがあるようです。はかりしれない。
というか加藤さんはほんとにソファーから動かないですね。いいんでしょうか。うん、まあいいんでしょう。
「俺こんなにのんびりできるのロボピッチャーのレコーディングの時だけやー」
っておっしゃってましたし。ふふ、休日のお父さんみたいですね。
TAKE3:
「後半をどのくらい盛り上げるかにもよるね…」
仮歌を聴きながら、実際のアレンジを検討していく伊藤さんと加藤さん。ただひとつの答えにこだわるわけではなく、テイクを重ねる度ににいろいろやってみながらよりよい正解を探っていく。この過程があるから、思いがけないほど素晴らしい曲たちが生まれていくわけなんですね。
「ところで加藤さん、この曲、ものすっごく甘いラブソングなんですけど…」
「たまには俺もこんなん作れるねん」
スイマセン加藤さん。まいりました。
わたし、この歌が大好きになると確信しています。もしもこういう歌ばっかりだったらロボピッチャーをこんなに好きにはなっていないかもしれないけど。でも、百科事典をめくっていたら出てきた押し花みたいに、きっと、宝物になる歌です。
そして、この日最後の1曲がはじまる時がやってきました。外はすでに真っ暗。そして時折通る車のライトが照らしだすのは真っ白な雪景色です。
ここで「あと1曲♪」コールが発生(ささやかに)。
次の曲はとてもデジタルな印象が強いデジデジした曲で、演奏も打ち込みが中心になるようです。収録も通して1曲を録るというよりは、素材としていろんなパターンの音を出して録っていく…というような感じでした。新しいおもちゃを選んでるみたいに楽しそうに、収録は進んでいきます。
むつかしいこと考えていても勝手に羽が生えて飛んでくような、よくわかんないけど頬が緩むようなオカシイ曲だったのです。
|
「伊藤君ー、ほかになにかある?」
「使うかどうか分かんないですけどスネア多めでお願いします。ベースも、もうちょっと遊んでるバージョンがあったら使えるかも」
伊藤さんがとても生き生きとされている!ちなみに、この曲には伊藤さんの趣味的なアレンジが加藤さんも知らないうちに付け加えられていたりしたことが徐々に判明していきました。フリーダムです。とてもたのしいです。 |
加藤さんがソファーから動かず冒険に集中されていた(ように見えた)のは、信頼のなせるワザなのかしら…?うんきっとそうですね!中ボスも倒せたみたいですよ。
「こうやってパーツになる音を集めてるんですね。それを組み合わせる担当は…」
「そう、録れば録るほど僕の仕事が増えていく。…うわーこれ大変や!」
「はは、できる男は大変やなー」 |
|
わあ、いますごく楽しそうに他人事にされてましたよ。
そんな感じでこの曲は愉快に軽やかに、収録は30分ほどで終了したのでした。もちろん、伊藤さんにとっては終わりではなく始まりなわけですが。
これからまだまだいろんなお楽しみがつけ加えられるにちがいない。もしかしたら、仮歌とぜんぜんちがう曲になるかも?いったいどんな風に仕上がるのか、もっとも想像のつかない曲になりそうです。
「ところでこの曲、ギターいる?」(!!?)
「いるよ!・・・いや、どうかなぁ」
「えーー?」
「固定概念に捉われ過ぎかなって。ギター!!とか、もうそういう時代じゃないんじゃないの?」
えー…!?さてどうなりますことやら?果たしてギターは鳴るのか?それとも新時代が到来するのでしょうか?
こうして、最終的にこの日は和気あいあいと5曲のドラムとベースの録音が完了しました。
|
「ああ、帰ってギターの弦張り替えないと」
なんて加藤さんが言って、やけにあっさりとこの日の作業は終了し、帰途に就いていくロボピッチャーのみなさん。そりゃそうです。翌日もまたこのスタジオでレコーディングは続くのです。
to be continued です。
でも、1曲が録り終わるごとに交わされた、そしてこの日の予定が無事に完了したその時に交わされた、
「よし、できた!」
「OK、ばっちりです」
「お疲れ様でしたー」 |
なんて日々に交わされるごくあたりまえの言葉がこんなに輝くなんて思いませんでした。音楽を作る場面に居合わることができたのははじめてでしたが、素敵な音楽が生まれるところにはやっぱり素敵な雰囲気があるものなんですね。納得です。
一気に一斉に演奏がはじまって終わるライブとは違います。
ひとりずつ、音ひとつずつ、別々に演奏して組み立てていくレコーディング。でも間違いもなく、たしかにここで今、ロボピッチャーが全員でひとつの音楽を作り上げているんだとつよく感じました。
今日もこうしてロボピッチャーが音楽を作り続けている(かもしれない)。
ひとつずつ、少しずつ…完成に向けて、そして始まりに向けて、生まれ続けているのです。
ところで、みなさんもとっても気になっていることがひとつ、ありますよね?
「わたし、前回の対談からいったい何のレコーディングなのかいっさい聞いてないんですけど…」
「そうなんだよねー」
「まあ、すぐには分からんほうが盛り上がるでしょう。僕らもはっきりわかってないし・・・」
おしえてもらえませんでした。ううっ。
待て続報! わたしも待ってます。
そして今後順調にに更新されていく(いきますよ〜)ロボピッチャーHPを、どうぞみなさんお見逃しなきようによろしくお願いいたします!
written by 葉
ご意見ご感想叱咤激励批判文ダメだし、HPスタッフへのご応募などは以下アドレスまで。
|