ミュージシャンが音楽ライターにインタビュー。

 

  後編

というわけで、昔から一度はやってみたかったこの企画。
いつもは話を聞かれるばかりのミュージシャンが、音楽ライターさんにインタビューしてみました。
音楽テキストの現在と今後、アーティストのプロモーションとは。はたまたロボピッチャーの宣伝は今後どうして行くべきなのかっ!
新宿のひなびた喫茶店で2時間に渡って行われた二人ぼっちの対談でございます。激長です。

前編をまだお読みでないかたはこちらから。



加藤:聴くきっかけを変えたいかあ…。
僕が10代のころは音楽雑誌を見て「おー良さそう」とか思って買いに行ったじゃないですか。
それ今はどうやって買いに行くのかなあ。聴くきっかけってなんなんだろう。テレビ?

杉岡:人気のアーティストが出す時、ジャンルの似通ったアーティストは合わせてリリースしたりするらしいですね。人気アーティストが平出しされてたりすると、「○○さんも出してますよ」って近いコーナーで紹介されるから、「あ、この人も同じようなのやってんだ」と興味を持つっていう。

加藤:あー聞いた聞いた。
まじかよ!って思った、俺。それ聞いた時に。
もうちょっと凛と立てよ、お前!って。

杉岡:ははははは(笑)
だからそう考えると今の雑誌の感覚って残ってんのかなって。残ってるからこそなんじゃないですかね、そこは。

加藤:どうなんだろう…。
人はどういう時にCDを買うのかっていうのがほんとにわからなくて。
でも僕はものを売る人間じゃなくて、ものを作る人間だから。「俺はこれが好きだ!」っていうのを極端まで突き詰めて、作ることしかしてないわけですよ。それで世の中がどう思うかというのは世の中が考えればいいことであって、僕が考えることではないです。曲にしても雑誌にしてもホームページにしても。でもその間にいる職業柄ものを売らなきゃいけない人が何を見てんのかほんとにわかんないんですよね。ものが売れていく図式みたいなもの、風景とかがまったく見えないですよ。

杉岡:そこに関しては正直に言ってしまうと、僕もやっぱりわからない。それじゃ今日の対談の役に立たないだろって話ですけど。
ただもっと個人的になっていくのかなっていう気はしますね。例えば紹介する側ももっと個人になっていくのかなって。

加藤:blogとか?音楽ライターももっとパーソナルになるっていうこと?

杉岡:まあそうですね。
質の高い音楽テキストっていうものの意味合いがどんどん変わっていかないとなとは思うんですよね。
そういう意味では大元の話ですけど、そういうライターの個性が薄くなってる気がします。偉そうに言ってしまうと、そろそろそこが変わるのかな、なんて。中にいる人間が言うのも何ですけど、さっき加藤さんが言われたような、ぐっと個性の強いものとかがこれからまた出始めるんじゃないか。ただ、一時期のやたらと熱い音楽テキストは、廃れ始めているようにも思いますけど。

加藤:それに関して僕が思うのは、一昔前のライターの個性が基盤にしてたものって「音楽には神様が宿っている、音楽には正義がある、音楽には真実がある」という確信の元に、ある種宗教的な熱情でもって熱狂的な布教活動としてテキストは書かれていたから、そのテキストには熱がこもるし狂信的なものがそのテキストには宿っていたと思うんですよ。今それ必要ないじゃないですか。誰もそれを求めていない。今の時代の中で。音楽ってもっとライトに楽しむものだし、ちょっとこうつまみ食いするもので、他にも楽しいものがいっぱいあって、その中で音楽をピックアップする。音楽の中にダイブするのではなくてちょっとピックアップするものになってきている中に必要な「個性」って何なのかっていうことだと思うんですよね。

杉岡:それは多分、その答えが出た時に多分すごくすごいきれいな対談になる感じがしますね(笑)。

加藤:その個性ってのが難しいんですよね。多分だれも答えがわからないから世間が音楽をピックアップしてんのに、あちこちでライターさんがダイブしてる。

杉岡:個人的にはナンシー関さんや松尾スズキさんのような音楽ライターが必要だとずっと思っていて。

加藤:ライトな辛口コラム。

杉岡:そうですね!

加藤:はははは(笑)

杉岡:けど結局、それで痛くなっちゃってる自分がいて。

加藤:逆説的に。

杉岡:うん。

加藤:あーなるほどね。

杉岡:批判するのってすごく簡単じゃないですか。なんだけど、批判した上でその対象に興味を持たせるというのがすごく難しくて、それを成立させていたのがナンシー関さんだと僕は思っているんですけど。

加藤:毒舌芸(笑)。
あれはもう芸ですよね。

杉岡:はははは(笑)。
そうですね。芸術の粋に達している。



加藤:やっぱり今はレコード会社や音楽事務所ってそういう毒舌的なことをかたくなに拒んでいるじゃないですか。
ちょっとでもマイナスのこと書いたら訂正入るでしょ。

杉岡:入ります(笑)。

加藤:ものすごくいいことをずっと書いていて、この時ベースの彼の表情が少しだけマヌケ面だったのがおもしろかったっていう一文があって、そこが流れの中でインパクトになっているのにそこに赤が入るでしょ。何だと、その態度と。

杉岡:僕も一回、最初はダラダラしてたんだけど、段々グッと来て最終的にはすごいライブだったってのを書いたんですけど、そのダラダラ部分が削られた。で、ここを削られちゃうと抑揚のないレポートになっちゃうんですよね。

加藤:読み物としておもしろくなくなる。宣伝、純広告を書いてるわけじゃないから、そういうのの見せ方がヘタな人はいますよね。
例えば倉橋ヨエコさんの打ち出しとかって、制作側が倉橋ヨエコさんの不思議な部分とか微妙な部分とかをばーっと書いてるじゃないですか。血液型占いにめちゃめちゃはまっていて、私は血液型を必ず当てられると言うが、その正解率は五割を切る。スタッフは半分呆れ顔で彼女を眺めている。ていうような。

杉岡:はははは(笑)

加藤:それはすごく難しいことだと思うし、アーティストのキャラにもよると思うけれども、でもちゃんとおもしろいしタッチがあるんですよ。そういう打ち出しをもっとねえ。

杉岡:ドキュメンタリー作家の森達也さんが以前、現場の人間が臆病になりすぎちゃってるって言ってまして。テレビ番組を作る時に、現場の人間が勝手に検閲をしちゃう。コレはダメだやめとこうコレはダメだやめとこうって、想像でどんどんNGを出していって最終的には同じようなものを作ってしまう。「ああ、なるほどなあ」って思いましたよ。だって、実際に自分もやってるんですよ、かなり。

加藤:「放送禁止歌」ですね。

杉岡:あ、そうです。
でもまあ、そういう所があるんですよね、音楽製作サイドにも。その音楽系のコラムとかレポであったりで一番感じるのはそこですね、笑いがないというか。

加藤:それはヒントかもしれない。毒舌でなくてはならないのかというのはわからないですけど、もうちょっとライトに読める読み物っていうものが定期的にすっすっと提供されているのは…

杉岡:理想ですよね。
テレビは見ていなくてもナンシー関さんのコラムは好きだっていう人がいる。じゃあ音楽業界で、さらに僕がそれをできるのかどうか、っていうのは別として、やっぱり目指したいところではありますよね。


加藤:ナンシー関を見てて思うのって、ナンシー関って文章がうまいとかそういう軽妙なおもしろいのが書けるっていう以前に、社会学的な見地から見るじゃないですか。結局日本っていうのはオタクとヤンキーしかいない。文化を動かしてるのはオタクとヤンキーだっていう。

杉岡:ファンシーとヤンキーでできてるっていう(笑)

加藤:そうそう。ファンシーとヤンキーでできてるっていうキャッチコピーをバンッと言えちゃう。なるほどって。一行で世の中を切り取れるっていう感じがあるから、そんな人がタレントの悪口を書いてたらなるほどねーって思っちゃう。
あの評論力とコラボ力みたいなものが…

杉岡:結局、そういう社会性みたいなものが備わっていないと説得力がないんですよね。
音楽だけをやっていてはダメで。

加藤:そうなんです。

杉岡:そこが難しいところで。

加藤:僕は思うんですけど、音楽ライターの根本って過去に自分が音楽に感動したっていう記憶じゃないですか。そこが僕は弱いなと思っていて。ルーツがないというか。ルーツが浅はかというか。もちろんそこからがしがし音楽を吸収して、人生をぐわっと取り込んでがっしりとした基盤を作る人もいるとは思うんですけど、なんかちょっと弱い人が多い気がするんですよね。

杉岡:その感覚はわかりますね。もう感動では動かない。僕は笑いのパワーを信じてる部分があって、笑いというのは使えるツールだと。ナンシー関さんもそうですけど、けなしていても“おもしろい”という事が免罪符になる。かといって、バンドには取材をさせてもらうっていうスタイルなのでけなす気はないんですよね。ただそこに笑いを入れることによってそのバンドに全然興味のない人にも、「コイツのレポはおもしろい」とか、個人じゃなくても「hotexpressってちょっとふざけてておもしろい」とか。そこから「こんなおもしろそうなライブなら見に行きたい」って思わせるようなものが、もしできるのであればそれは理想かもしれないです。

加藤:例えば、菊池成孔さんがbounce.comでやっていた「CDは株券ではない

杉岡:あーあれは僕も見てましたね。

加藤:あれはすごいですよね。なにより面白かったし。曲の骨格だけからCDの売り上げ枚数を当てようっていう企画ですよね。タイアップとか歌ってる人のパーソナリティーはなるべく排除して。

杉岡:CD売り上げ枚数っていういやらしいとこに特化していたから、逆に一般の人から見てもおもしろいんですよね。

加藤:おもしろかった。だからすごい衝撃を受けた。
えっこの人ですらこんだけしか売れてないの?!とかも思ったよ…。

杉岡:あーはいはいはい(笑)

加藤:こんなに手の届く場所にいんの?!とか。
だからあれでほんとに世の中でCDが売れてないんやっていうことが実感できたし。音楽経済学的な見地から見ても面白かった。
狙うならあのラインかな。

杉岡:ネットでは他にもmF247とかおもしろいですよね、音楽を無料で配信したりして…

加藤:ロボピッチャーも一曲入ってますし…。

杉岡:音楽配信メモの津田さんとか、調べていけばどんどんおもしろいことがあるんですよ。でもどうしてもマニアックなんですよね。

加藤:やっぱり菊池さんのページはマニアックな視点でまったくマニアックじゃないものを取り上げることにより一般化をした、大衆性を得たっていうところがすごかったんですよね。
hotexpressも何かやりましょうよ。

杉岡:がんばります(笑)。


加藤:なりたい職業が音楽ライターっていう子は10年前くらいはいっぱいいて、今はもうそんなにいないですからね。何でなんすかね。

杉岡:90年代からこっち、ゲームのシナリオライターになりたいっていう子供が多いらしいんですよ。ゲームライターとかゲームプロデューサー、プランナー。言葉の響きはいいですけど、じゃあ何がしたいのっていえば結局、「自分のアイデアを言いたい」としか聞こえなくて。プログラマーになりたい、ならまだわかるけど。

加藤:口出ししたいだけなのかな。手を動かしたいとか、こつこつとテープ起こしとかこつこつプログラム組んだりとかは嫌なんですかね。
でも実はゲームプランナーがやることってプログラミングともすごいリンクしてることだからそうそうアイデアだけでは渡っていけないですもんね。みんな楽してモノ作りたいのかな。

杉岡:若い頃はみんな自分には才能があると思いがちですよね。自分のアイデアってのは画期的なんだ。このアイデアを世界に出せば世界は変わるぞって思っていて。

加藤:それは僕は今でも思ってますよ。

杉岡:あはははは(笑)、俺も。

加藤:だからダメなのか(笑)

杉岡:だからここにいるんだ(笑)

加藤:だから新宿アマンドでインタビューなんだ。高級料亭じゃないんだ。くそー。
音楽ライターに話を戻すと、何かを作りたいっていう人がたくさんいて、誰かが作ったものを同等くらいの熱意で紹介したいと思う人の数は減ったんだと思う。
でも本来はさっきも言ったけど、批評であったり評論であったり、レビューであろうとインタビューであろうとライブレポであろうと元の作品を凌駕するほど大事なものだから、そこをもう少しクローズアップできる人が出てきたらいいなとは思うんですけどね。
他人の土俵で相撲を取ったフリをしてるわけじゃないと思うんですけどね。

杉岡:自分の土俵にすればいいっていう感じ?

加藤:そうそう。もういっこそのための土俵を作って、そこで試合をすればいいと思うんですよ。

杉岡:そこですよね。やっぱり。


加藤:じゃあ、最後。
じゃあ最後に…。最後に何でまとめよう。
これは一体誰に向けての対談だったんだろう。音楽ライターになりたい人たち?

杉岡:いや、もう何についてなのかももうぼんやり。

加藤:いや(笑)。まあまあ、音楽とテキストの関係ですよね。
今後どうなっていくかの話もしたし。
ま、何か適当にまとめるか。
じゃあこの対談を元に何かコンテンツを立ち上げましょう。
hotexpressとロボピッチャーのホームページでリンクできるような何かを考えよう。

杉岡:それはすごくいいですね。前向きで。

加藤:あとは、そのものすごい前に話は戻りますけど、メカニズムがわからないっていう話をしたじゃないですか。
人がCDを買うメカニズム。人がミュージシャンを好きになっていく過程とかわかんないじゃないですか。
それを募集しましょう。読者に。
「君はどうやってロボピッチャーを好きになったのか?!」ってやつ。

杉岡:あー。それはいいかも。
そしてそれについてコメントしていく。

加藤:そうです。どんなきっかけでロボピッチャーを好きになったのか。なぜ好きになったと自分で思うのか。
もしかしたら杉岡さんのレポを読んでっていう人もいるかもしれない。

杉岡:あーその人はあれですね、個人的にうちに来て欲しい。

加藤:うちには来ない(笑)。うちには来ないから。

杉岡:飯ぐらいはおごる。抱きしめる。

加藤:きっかけとかどうやって好きになったのかを聞いて、さらに新規獲得するにはどうすればいいのか。
みんなで考えよう!

杉岡:ロボピッチャーを広める(笑)。

加藤:そういえば忘れてましたけど、オフィシャルサイトですからね、この対談。
あ、そうそう思い出した!
なに俺日本の音楽テキストを憂いてるんだろう。違う。思い出した。
ロボピッチャーのお客さまを増やす為に適切なテキストっていうのは何なのかってことですよ。

杉岡:なるほどね。

加藤:それを考えないと。いや、考えていこうと。

杉岡:あ、これから考えていこうと。

加藤:ちなみに杉岡さんは現時点ではロボピッチャーを広めていくのに必要なテキストは何だと思いますか?

杉岡:オフィシャルサイトを毎日更新。

加藤:毎日は無理。いっそ死なせてくれ。

杉岡:あははは(笑)

加藤:毎日は勘弁してくれ。

杉岡:中川翔子さんっているじゃないですか。僕は2回くらい取材させてもらったんですけど、あの人の人気ってまさにそこですよ。

加藤:一日に40回とか…

杉岡:更新内容はさして大切ではないような気がします。もちろんアイドルという特性、あの人のコアな魅力は根底にあると思うんですけど、あそこまでプライベートが見えるのは凄い。

加藤:じゃあロボピッチャーは毎日更新したらいいってこと?

杉岡:うん。

加藤:週一更新でどんだけひーひー言うてると思ってんねん!

杉岡:でもあの週一更新って素晴らしいと思います。更新の日が決まっていてあれだけの文量が更新されるってなると、やっぱり読み続けたくなりますよ。あれを一年間続けると全然変わってくると思います。

加藤:何だかんだであれね、読むだけでも10分以上かかるんですよ。けっこうな文量ですもんね。
今ちょっといろんなところと繋がってみたいなと思っていて、今回は杉岡さんのコメントもそうですけど、うちのメンバーもいろんな人と対談してもらおうと思っていて。

杉岡:そうですね。あれに例えば他のバンドさんが入ってきたりとかなってくるとおもしろいですよね。

加藤:だから今後対バンするおもしろそうなバンドと全部対談しようかと思って。

杉岡:いいですね。かたっぱしからどんどんどんどん。

加藤:対バンと対談。

杉岡:あはははは(笑)

加藤:今作った(笑)

杉岡:あ、じゃあ東京の時は僕が真ん中に立ちます。

加藤:ぜひお願いします。
じゃあテープ起こし担当ね。

杉岡:うそー
一番大変なとこだ。

加藤:はははは
まあまあ仲良くやっていこうと。今後ともよろしくお願いします。

杉岡:はい。よろしくお願いします。

ALL:ありがとうございました。


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